近年、日本国内でもデジタルノマド関連の活動が活発化してきています。全国各地で国際的なリトリートやイベントが開催され、外国人デジタルノマドたちも多く参加しています。さらに、2024年4月からは日本でデジタルノマドビザの発給が開始され、日本国内のデジタルノマド事情はますます注目を集めています。
この記事では、日本のデジタルノマドビザの内容を含め、今後さらなる盛り上がりが期待される日本のデジタルノマド事情についてお伝えします。
デジタルノマドコミュニティが盛り上がっている背景
日本でのデジタルノマドコミュニティが活性化している背景として、国や地方自治体がデジタルノマドの誘致に積極的になってきたことが挙げられます。また、日本のユニークな文化や整ったインフラ、治安の良さも、デジタルノマドにとって理想的な環境を提供しています。
日本のデジタルノマドビザ発給
2024年4月から発給が開始された日本のデジタルノマドビザは、リモートで仕事を行う外国人を対象とした新しいタイプのビザです。このビザの導入は、デジタルノマドの増加を受けて、彼らが日本国内でより長期的に滞在できるようにすることを目的としています。
ビザの概要
デジタルノマドビザは、正式には「特定ビザ:特定活動(デジタルノマド・デジタルノマドの配偶者等)」と言い、日本国内でリモートワークを行いたい外国人とその家族(配偶者・子供)に対し、滞在を許可するためのビザです。このビザは、リモートワークに従事している個人が一定の条件を満たす場合に発給されます。
滞在期間
日本のデジタルノマドビザの滞在期間は最大で6か月までとされていて、これは世界各国のデジタルノマドビザの多くが少なくとも1年間の滞在を許可しているのと比較して、かなり短い期間となっています。
申請条件
デジタルノマドビザは誰でも取得できるわけではなく、申請する際には以下の基本的な要件が設けられています。
- リモートワークの証明
申請者は、日本国外の企業や団体のためにリモートワークを行っていることを証明する必要があります。これには、雇用契約書やクライアントとの契約書が必要です。 - 経済的自立
日本滞在中に自己資金で生活できることが求められます。申請時には、申請人個人の年収が1,000万円以上であることを証明できる、納税証明書や所得証明書などの書類の提示が必要です。
年収1000万円というと最低でも月々83.4万円以上の収入が必須なわけで、そこそこ高所得者のみを対象にしている事がわかります。
- 健康保険の加入
日本国内に滞在中、医療費をカバーできる健康保険に加入していることが必要です。申請には滞在中の死亡、負傷、疾病に対応した保険(傷害疾病への治療費用補償額は1,000万円以上)に加入していることを証明する書類の提示が必要です。
また日本のデジタルノマドビザを取得できるのは日本入国に際しビザ免除されており、租税条約を結んでいる49か国の国民に限られています。
現在デジタルノマドビザを発行している国は数多くありますが、それらと比較して日本のノマドビザは滞在できる期間も短く、条件も厳しめな印象です。とは言え、デジタルノマドビザの発給開始は国が本気でノマドを誘致しようとしている姿勢を示しており、大きな第一歩と言えます。
国や地方自治体と民間が協力してデジタルノマドの誘致に積極的
コワーキングスペースや宿泊事業などの民間企業はもちろん、日本政府や地方自治体がデジタルノマドを積極的に誘致する取り組みを始めています。
例えば観光庁は、「デジタルノマドの誘客に先駆的に取り組む モデル実証事業」を選定するなど、観光政策の一環としてデジタルノマドが国内で暮らしやすい受け入れ体制を構築するための施策を進めています。
また、地方自治体もそれぞれの地域特有の魅力を活かし、ノマドを誘致するためのプロジェクトを展開しています。
福岡・福岡市
福岡市は、日本国内でデジタルノマドの受け入れに最も積極的に取り組んでいる地域の一つです。2023年に初めて開催された「Colive Fukuoka」では、24か国からノマドワーカーたちが集まり、国際的なリトリートとして成功を収めました。2024年にはさらに規模を拡大し、世界各国のノマド界のリーダー達による公演が行われるなど、福岡市はデジタルノマド誘致の先駆的な都市として注目されています。
沖縄・名護市
トロピカルな気候、美しいビーチとユニークな歴史と文化を持つ沖縄は、デジタルノマドに注目されているエリアです。沖縄県名護市では2024年11月にデジタルノマド向けのリトリート「Nomad Resort 」が開催。豊かな自然環境と仕事をしやすいインフラが整った名護市は、ノマドワーカーにとって魅力的な拠点となっています。
石川・金沢市
歴史的な街並みで日本の伝統文化を感じられる、外国人観光客にも人気の金沢市でも、デジタルノマド誘致推進事業が進められています。その一環として、2024年11月に「Coliving Program in Kanazawa | Savor the rich flow of time」が開催。
金沢市では、デジタルノマド×地域企業とのビジネスマッチングによる金沢の文化・観光活性化プロジェクトとして様々な企業と連携し、ノマドの誘致に取り組んでいます。
静岡・下田市
静岡県下田市では、ワーケーションやデジタルノマド向けの取り組みが進められています。2024年11月開催の「Tadaima Shimoda」は、地域住民との交流を中心に、言語の壁を越えた「ともだち」作りを目指すコンセプトで、歴史的な町並みと美しい自然環境が融合した下田でリモートワークをしながら観光や温泉、現地の文化体験ができ、国内外のデジタルノマドに注目されています。
宮崎・日向市
サーフィンやワーケーションをテーマにした街づくりに力を入れている宮崎県の日向市は、外国人デジタルノマドを誘致するための取り組みを始めています。バリからサーファーのデジタルノマドを招聘したモニターツアー等を行っています。
バリのチャングーやフィリピンのシャルガオ島のようなサーフィンとノマドの聖地なる可能性を秘めていると言えるでしょう。
https://www.youtube.com/watch?v=rXxbph2NbB8
旅行先としての日本の人気が定着
日本は近年インバウンド観光が盛況であり、世界中の旅行者から高い評価を受ける旅行先となっています。その理由として、日本独自の文化や伝統、人々の礼儀正しさとサービスの良さ、整ったインフラ、そして治安の良さが挙げられます。さらに、四季折々の美しい景観が各地で楽しめることも、日本ならではの魅力です。
また円安や他国の物価上昇により、多くの外国人旅行者にとって日本は比較的リーズナブルに長期滞在が可能です。
これまでデジタルノマドにとってアジアではタイやバリが人気の拠点でしたが、近年、日本を訪れてみたいと考えるノマドワーカーが増えており、旅行先としての日本の人気が定着しつつあります。
日本がデジタルノマド誘致に取り組むべき理由
日本がデジタルノマド誘致に取り組むべき理由として、地域経済の活性化や新たなインバウンドの創出が挙げられます。日本にとって、この新しい形の訪問者を積極的に誘致することは、地方活性化の一環として重要な取り組みとなるでしょう。
関係人口の増加による地域経済への貢献
国や自治体がデジタルノマドの誘致に積極的な理由は、大都市や大勢の観光客が押し寄せる観光地以外にもインバウンドを呼び込み、地域経済の発展に繋げる事です。
デジタルノマドは観光客とは異なり、長期間にわたって滞在し、地域に深く関わる傾向が強いため、単なる観光収入以上の経済効果をもたらす可能性があります。コリビングやコワーキングスペース、カフェやレストランなど、ノマドが集まる街には多くのビジネスチャンスが生まれます。
観光客とは違う、新しいインバウンド
デジタルノマドは、短期間で観光を楽しむ旅行者とは異なる特徴を持つ新しい形のインバウンドです。彼らはまさに「暮らすように旅をする」スタイルを実践しており、全てのノマドがそうだという訳ではありませんが、全体的に以下のような傾向が見られます。
- 一つの場所に長期滞在する
- IT関連の職業に従事している人が多い
- 地元の人々や他のノマドとの交流を求める
- 地域の文化や環境に配慮して行動する
デジタルノマドが一つの場所に滞在する期間は観光客と比べて長く、リモートワークを通じて生活しながら、大抵1ヵ月から時には1年以上に及ぶこともあります(ビザ条件が許す場合)。職業としては、プログラマーやウェブデザイナー、動画クリエイター、デジタルマーケターなど、主にIT関連の仕事に従事している人が多いのが特徴です。デジタルノマドビザの取得にも年収1000万円以上という要件がありますが、十分な収入を得てノマド生活をしている人が多いです。
また、ノマド生活は一人で過ごすことが多くなるため、地域の人々や他のデジタルノマドとの交流を求める傾向があります。各地で開催されるミートアップやノマド向けのリトリート、コワーキングスペースでのネットワークイベントにも積極的に参加する姿がよく見られます。
更に、滞在先の環境や文化への配慮が高い人が多い事も記しておきべきでしょう。「旅の恥は掻き捨て」という言葉がありますが、殆どのデジタルノマドにこの言葉はあてはまりません。多くの国に少しだけ暮らす事を経験を繰り返している彼らからは、地域社会の文化を理解して溶け込もうとする姿勢が感じられます。
日本のデジタルノマド今後の展望と課題
日本は今後も多くのデジタルノマドが訪れたい国としてさらに注目されるでしょう。また、デジタルノマドの誘致に取り組む自治体の数も増加していくことが見込まれます。
しかしデジタルノマドが集まる街として確立するためには、受け入れ体制の整備などの課題もあります。
- インフラ設備の整備:快適に仕事ができるコワーキングスペースやWiFiなどのインフラはデジタルノマドに必須です。
- 英語対応の不足:英語圏ではないアジアでも、ノマドスポットと呼ばれる地域では宿泊施設やコワーキングスペースやカフェでは英語よく通じます。日本の地方では英語対応が行き届いていない場合が多く、ノマドワーカーにとってハードルとなります。
- 交通や生活の利便性:地方に誘致する際、交通の便や日常の生活インフラが不十分であると、長期滞在するノマドは不便さを感じ、定着が困難になります。
- コミュニティの形成:デジタルノマドが孤立しないよう、地域住民やビジネスとの連携やイベントの開催など、ノマドが参加しやすいコミュニティの整備が必要です。
- デジタルノマドビザの課題:現状では、最長6か月という滞在期間はノマドビザとしては短く、要件緩和、対象国の拡大を求める声が挙がっています。
このような課題を克服することで、日本はさらに魅力的なデジタルノマド拠点となる可能性を秘めています。